日々の読書日記

読書の忘備録です

小説

123回目「闘争領域の拡大」(ミシェル・ウェルベック:河出文庫)

真偽のほどは定かではないが、宮沢賢治は生涯童貞だったらしい。この話を知った当時の自分は、何故か心の底から安堵した。恐らく、高校生だった。当時の自分は、勉強もスポーツもできない、陰気な学生だった。異性からモテる要素が皆無であった。性欲は人並…

122回目「ガラスの街」(ポール・オースター:新潮文庫)

少し遅いが、今年の4月に亡くなったポール・オースターの追悼ということで読んでみた。いわゆるニューヨーク3部作の第1作目。後の2作は『幽霊たち』と『鍵のかかった部屋』。といっても、この3作は連作というわけではなく、それぞれ独立している。 自分は過…

121回目「宇治拾遺物語」(町田康訳 :河出文庫)

先日、ヨーロッパ企画という劇団の『来てけつかるべき新世界』という芝居を観た。 まあ面白く、何度も笑った。AIとロボットが大阪新世界に住む庶民の暮らしを席捲する近未来の話。基本的には、吉本新喜劇のようなドタバタコメディを基調としていて、バカバカ…

119回目「知と愛」(ヘルマン・ヘッセ:新潮文庫)

中学生の頃に『車輪の下』『デミアン』を呼んで以来のヘルマン・ヘッセである。 『知と愛』である。「ナルチスとゴルトムント」という副題が付いている。ナルチスもゴルトムントも人物名だ。「知」を重んじるナルチスと「愛」を重んじるゴルトムント。時に哲…

117回目「ある男」(平野啓一郎:文春文庫)

現役で活躍する現代作家の現代小説を読んだのは久しぶりだ。 平野啓一郎さんの『ある男』 シングル・マザーの里枝は、谷口大祐と名乗る男と出会い再婚する。ある日、大祐は仕事中の事故で命を落とす。やがて、夫だと思っていた「谷口大祐」は名前も素性も過…

114回目「パルタイ」(倉橋由美子:新潮文庫)

映画『関心領域』の感想を書こうと思ったが、やめる。すでに多くの人が、ブログや動画でこの映画の感想を述べ解説している。幾つか拝見したが、そのどれもが非常に得心のいくもので、今更自分如きが、このブログで言及しても意味がないと思ったからだ。 ただ…

112回目「海辺のカフカ:村上春樹(新潮文庫)」

村上春樹は中学生かそこらくらいに『ノルウェイの森』を読んで、ナルシスティックな世界観がどうにも自分には合わないと思い、それ以降、読むのを敬遠していた。どうせ、ちょっと影がある感じのミステリアスなイケメンが生の喪失感に悩むような話なんでしょ…

111回目「灯台へ」(ヴァージニア・ウルフ:岩波文庫)

めっちゃ久しぶりのブログ投稿です。 ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』は、自分的にはカフカの『城』よりも難しかった。 家父長制への批判みたいなものがテーマになっているのは分かる。 が、そんなことより登場人物たちの会話が面白い。 第一部のラスト近…

110回目「大人は判ってくれない」(フランソワ・トリュフォー監督)

ヌーヴェル・ヴァーグの旗手、フランソワ・トリュフォーの長編第一作。といっても「ヌーヴェル・ヴァーグ」がどういうものなのか、実はよく分かっていない。漠然とは分かる。「即興演出とか大胆な省略とかを用いて撮った当時としては革新的な映画の総称」く…

107回目「最後の将軍~徳川慶喜~」(司馬遼太郎:文春文庫)

坂本龍馬とか新選組が好きな人はけっこういるが、「徳川慶喜が好き」という人には出会ったことがない。よく耳にする「好きな歴史上の人物は?」といった質問に徳川慶喜を一番目に挙げる人は稀な気がする。日本を近代化に導いた立役者の一人であることは間違…

106回目「草薙の剣」(橋本治:新潮文庫)

10代から60代の6人の男が主人公。それぞれ年齢が高い順に「昭生」「豊生」「常生」「夢生」「凪生」「凡生」という名前が付けられている。彼ら6人のそれぞれの人生を、昭和から平成の終わりまでの歴史と同時に描かれる。令和は入っていない。 橋本治の…

104回目「ボヴァリー夫人」(フローベール:新潮文庫)

この小説の主人公はエマという名前の女性である。エマの物語である。しかし、タイトルは『エマ』ではなく『ボヴァリー夫人』である。小説内では、エマの行動と心理が最も多く描かれているのにも関わらず、この著しく主体性を欠いたタイトルが興味深い。しか…

103回目「浮雲」(林芙美子:角川文庫)

言ってしまえば、「不倫の果て」のような小説である。芸能人の不倫がゴシップになる度、「他人の事などどうでもいい」とか「興味がない」とか嘯いているが、そのくせ、つい関連するネット記事などを漁ってしまうのは、やはり、不倫に興味があるからだ。不倫…

99回目「音楽」(三島由紀夫:新潮文庫)

解説で澁澤龍彦が書いているように、『音楽』は三島由紀夫の作品群の中では主流ではない。マイナーな作品である。しかし、個人的には『仮面の告白』や『金閣寺』のような代表作より、この『音楽』の方が好きなのだ。理由は、他の三島作品を読んだ時に感じる…

97回目「わたしを離さないで」(カズオ・イシグロ:ハヤカワepi文庫)

『ちびまる子ちゃん』のクラスに藤木という男子がいる。藤木は他のクラスメート達から卑怯者のレッテルを貼られている。なぜ藤木は卑怯者になったのか。詳細は覚えていないが、最初の方のエピソードで藤木が卑怯者になるきっかけがあったように思う。それ以…

95回目「虞美人草」(夏目漱石:岩波文庫)

恋愛小説の書き方を学びたいなら、まず、この『虞美人草』を読む事をお勧めする。明治時代の小説だと思って侮ってはいけない。恋愛小説を成立させる全ての要素が、余すところなく詰め込まれている。複雑な人間関係、キャラクターの類型、ドラマの展開のさせ…

92回目「うつくしい人」(西加奈子:幻冬舎文庫)

自分は飲食店で注文するのが苦手である。ラーメン屋に行くと、皆口々に「麺固め」「ネギ多め」「背油少なめ」「ニンニク抜き」なんて注文をする。自分はあれができないのである。店員に「トッピングはどうしましょう?」と聞かれても毎回「全部、普通で」と…

87回目「深い河」(遠藤周作:講談社文庫)

自分は遠藤周作という作家が好きだ。遠藤周作を含め、自分には好きな作家が何人かいる。自分の趣味嗜好を分析してみると、その好きな作家に共通する作風が見えてくる。ここで注釈を入れると、「作家」は好きだが、彼らの書く「作品」が全て好きという訳では…

84回目「枯木灘」(中上健次:河出文庫)

自分の場合、小説を読んで感動するのは主に「物語」と「文体」に依ってである。どちらか一方でも、自分の琴線に触れれば、素直に感動する。単純な人間なのだ。まあ別に「感動」といっても、泣いたり心が震えたり人生観が変わったり、というような大袈裟な意…

81回目「あらゆる場所に花束が‥‥‥」(中原昌也:新潮文庫)

冨樫義博の漫画を読んだ時と同じような感想を抱いた。話の展開のさせ方が天才的に巧く、読者の興味を引きたてるけど、結局、最後は投げやり気味で終わる所が何となく似ているのだ。『幽遊白書』の魔界トーナメントの話も、トーナメントに至るまでの過程がと…

79回目「苦役列車」(西村賢太:新潮文庫)

様々な場所で「文学の必要性」についての議論を見かける。自分自身、文学作品を読むのは好きだし、好きだからこそ、こんなブログも書いているわけだが、改めて「文学の必要性」を問われると答えに窮してしまう。「文学は人間性を豊かにするから読むべきだ」…

77回目「プレーンソング」(保坂和志:中公文庫)

自分は「やれやれ」と呟く人間が苦手である。「やれやれ」という嘆息には、様々な欺瞞が含まれているように思う。相手を小馬鹿にしている感じが嫌だ。馬鹿な事をした相手、或いは、馬鹿な状況に対して「やれやれ」などと呟く人は、「自分はこんな馬鹿なこと…

75回目「悪意の手記」(中村文則:新潮文庫)

不治の病に冒された男が人生に絶望し社会を憎悪する。奇跡的に病気は回復するが、闘病中に心の中で育まれた虚無と悪意は消えず、やがて同級生の親友を殺害する。殺害に至るまでの主人公の心の動きと、その後の数年の人生を、手記形式で描いた小説。なぜ主人…

72回目「瓶詰の地獄」(夢野久作:角川文庫)

あははははは。いひひひひひ。うふふふふふ。えへへへへへ。おほほほほほ。はっはっは。あーっはっはっはっは。ぐへへ。ぐひひ。いひひ。ほほほ。くっくっく。ききき。けけけ。 と、いうように小説内で笑い声を表現するのは難しい。カギ括弧の中に笑い声を入…

67回目「雪沼とその周辺」(堀江敏幸:新潮文庫)

物心が付いた時から今までの人生の中で、悩みが無かった時期はない。常に、何かに対して悩んでいる。「悩みの無い人生というのはつまらない」という人がいる。その言葉の意味は、悩みを乗り越える事によって人は成長する、という事なのだろう。それは、その…

64回目「水いらず」(サルトル:新潮文庫)

本書を読んだからといって、サルトルの哲学について理解できるわけではない。小説はあくまで小説であり、それ以上でも以下でもない。 裏に書かれた粗筋とあとがきの解説によると、一応、収録されている5つの作品はどれも、サルトルの思想である実存主義に関…

61回目「存在の耐えられない軽さ」(ミラン・クンデラ:集英社文庫)

昔、加藤周一という人の論評を読んでとても感動した覚えがある。小説でも映画でもなく、評論を読んで感動したのは、この時が初めてであった。「知の巨人」と呼ばれた人で、世間的には左派系の論客とされているようだが、右とか左とかの分類がいかに無意味で…

58回目「ふらんす物語」(永井荷風:新潮文庫)

自分は結構、海外旅行が好きだ。沢木耕太郎とか金子光晴に憧れてインドを放浪していた時期もあった。といっても訪れたことのある国は全部で11か国とそれほど多くない。ガチでバックパッカーをやってる人には、遠く及ばない。そして、その11か国の中に、フラ…

57回目「闇の奥」(ジョゼフ・コンラッド:岩波文庫)

フランシス・フォード・コッポラの映画『地獄の黙示録』の原作。映画は完全版で3時間半くらいあり非常に長い。『地獄の黙示録』を観たのは15年ほど前だろうか。あまり覚えていないが、ジャングルの奥地へ主人公一行が船で進んでいくシーンの臨場感と、泥沼…

54回目「プールサイド小景・静物」(庄野潤三:新潮文庫)

今年は庄野潤三の生誕百年であり、よく行く書店では特集が組まれていた。書店の片隅に「庄野潤三生誕100年」と書かれたPOPが飾られてあり、そこに庄野潤三の幾つかの本が平積みされていた。別に大層なものではないが、興味を引いた。それで一番目立った置…