冨樫義博の漫画を読んだ時と同じような感想を抱いた。話の展開のさせ方が天才的に巧く、読者の興味を引きたてるけど、結局、最後は投げやり気味で終わる所が何となく似ているのだ。『幽遊白書』の魔界トーナメントの話も、トーナメントに至るまでの過程がとても面白かった。そしてトーナメントが始まり、いよいよ本格的に話が膨らむと期待した瞬間に、あの終わり方である。あまりにも唐突で、明らかに「描くのが面倒臭いから終わらせた」感が満載のラストだった。あの終わり方は、多くの読者の怒りと失望を買ったと思うが、実は自分は、その突き放した感じも結構好きだった。「才能のある人間はこんな暴挙も許されるのだ」とでも言いたげな、ある種の傲慢さに少なからずの好感を抱いたのだった。現在、少年ジャンプで連載中(休載中)の『HUNTER×HUNTER』も、話をあれだけ壮大にし、伏線を張りまくり、大風呂敷を広げた挙句、収拾が付かなくなって作者自身が袋小路に追い詰められてしまった感じがする。しかし、キャラクターの魅力も含め物語を壮大にする才能は確固たるものだ。自分にとって『HUNTER×HUNTER』ほど、続きが気になる漫画はない。未だにいつ連載が再開されるのか分からない。再開しても、すぐにまた休載するから本当に作品が完結するのかハラハラする。漫画の内容もスリリングだから、二重にハラハラさせられる。ある意味、お得なのかもしれない…。
で、中原昌也の『あらゆる場所に花束が』である。何気ないシーンのどこを切り取っても、血と暴力の匂いが漂うところが富樫義博の漫画に似ているなと思ったのだけど、やはり、物語の伏線の貼り方と、張り巡らされた伏線が結局最後まで回収されずに唐突に終わるところが富樫漫画を彷彿させる。
小説の作り方が未熟だから話を纏められなかったのか、意図的にそのようしているのかは不明だ。不明なのだけど、断片的に書かれた一つ一つのシーンは本当に面白い。面白いから、投げ出された各々のシーンが、最後に繋がり一つに集約されるのだろうと読者は期待する。しかし、小説の8割ほどを読み進めた時点で少し不安になる。もう数ページしか残ってないのに、また新しい登場人物が出てくる。ラスト1ページになっても焦点が定まらない。最後の最後になって、ようやく確信する。この『あらゆる場所に花束が』という作品は、物語を綺麗に纏めるといった、ありきたりな作法を放棄した小説なのだと確信するのである。
この読後感は、ミステリー小説を読んだ時の「騙された」とか「裏切られた」という感じではない。適切な言葉が見つからない。よく分からないうちに、中原昌也という作家にたぶらかされた、或いは、いいように弄ばれたという感じが近いかもしれない。だけど、決して読んだ時間がもったいないとは思わない。自分の中に残るものは確かにあった。それが何かは分からない。こんな読後感も、『幽遊白書』が唐突に終わった時の感触に似ている。要するに、面白いのだけど、この作者の素性を全く知らない者が読んだら戸惑う事は必須だとも思う。