村上春樹は中学生かそこらくらいに『ノルウェイの森』を読んで、ナルシスティックな世界観がどうにも自分には合わないと思い、それ以降、読むのを敬遠していた。どうせ、ちょっと影がある感じのミステリアスなイケメンが生の喪失感に悩むような話なんでしょ、と高を括っていた。と、同時にハルキストと言われる村上春樹大好きな感じの人達が、どうにも苦手であった。ジャズ聴きながらウイスキーのウンチクを垂れる人種だと思っていた。
ところが、2年くらい前に、何かのきっかけで『蛍・納屋を焼く』という短編集を読み、なんやけっこうおもろいやんけ、と思い直し、やはり読まず嫌いはダメだと考えを改め、この度、長編の代表作のひとつ『海辺のカフカ』を読んだわけである。
面白かった。そして、読みやすかった。老人パートと青年パートの物語が交互に書かれているが、個人的には老人パートの方に多くの共感を抱いた。村上春樹が描く登場人物はスカした感じのいけ好かない男ばかりだと思っていたけれど、こういう白痴の老人の描き方が思いのほか面白く、目から鱗が落ちた。ただ、ちょっと思わせぶり過ぎじゃないの?とも思う。石の意味もよく分からないし、結局、近親相姦だったのかどうかもアヤフヤで、その曖昧な感じが村上春樹的な世界観で良いのかもしれないけれども、自分はもう少し明確に結論を書ききって欲しいとも思った次第だ。
あと、老人と一緒に旅するトラック乗りの青年の一人称が「俺っち」っていうのも、村上春樹ぽくなく意外だったけれども、正直ダサい。ここは、普通に「俺」でいいんじゃないの?