日々の読書日記

読書の忘備録です

122回目「ガラスの街」(ポール・オースター:新潮文庫)

少し遅いが、今年の4月に亡くなったポール・オースターの追悼ということで読んでみた。いわゆるニューヨーク3部作の第1作目。後の2作は『幽霊たち』と『鍵のかかった部屋』。といっても、この3作は連作というわけではなく、それぞれ独立している。

自分は過去に『幽霊たち』のみ読んだことがあった。内容は殆ど覚えていないけど、「変わった小説だなぁ」という読後感は覚えている。探偵小説の体をした、前衛小説だったような。そもそも、何をもってして「前衛」なのかは、分かりませんが、でも、「前衛」という評が妙にしっくりくる。「前衛」を標榜する作品にありがちな、妙にすまして上滑った感がなく、地に足ついた前衛と言おうか。見た目おしゃれなんだけど、見た目だけでなく、味もしっかり付いてる、そういう小説だったような気がする。

『ガラスの街』も、そういう意味では『幽霊たち』に似ている。ニューヨークを舞台にした、探偵小説という名の前衛小説で、メタ要素があったり、内容はけっこう入り組んでいるのに、読みにくさは感じず、寧ろ、重層的で入り組んだ内容が、読み続ける推進力になっている、気がする。

読み終わった後は、自分の身体も存在も透明になったような錯覚が味わえる。

なかなか、ないことだと思う。