日々の読書日記

読書の忘備録です

97回目「わたしを離さないで」(カズオ・イシグロ:ハヤカワepi文庫)

『ちびまる子ちゃん』のクラスに藤木という男子がいる。藤木は他のクラスメート達から卑怯者のレッテルを貼られている。なぜ藤木は卑怯者になったのか。詳細は覚えていないが、最初の方のエピソードで藤木が卑怯者になるきっかけがあったように思う。それ以…

96回目「バーバー」(コーエン兄弟監督)

ビリー・ボブ・ソーントン演ずるエドは、義兄の経営する床屋で雇われ理容師として働いている。寡黙に淡々と客の髪を刈る毎日。妻のドリスが会社の上司デイヴと不倫しているのもエドは黙認している。ある日、一人の男がドライクリーニング事業への投資話をエ…

95回目「虞美人草」(夏目漱石:岩波文庫)

恋愛小説の書き方を学びたいなら、まず、この『虞美人草』を読む事をお勧めする。明治時代の小説だと思って侮ってはいけない。恋愛小説を成立させる全ての要素が、余すところなく詰め込まれている。複雑な人間関係、キャラクターの類型、ドラマの展開のさせ…

94回目「オール・アバウト・マイ・マザー」(ペドロ・アルモドバル監督)

数年前に初めて観た時は、途中で10分ほど寝てしまった。当時は少し睡眠不足で疲れていたのである。そのため、ストーリーを見失った。ストーリーは見失ったが、断片的ないくつかのシーンは、強烈に記憶に残っていた。アルモドバルの映画は色気がある。耽美的…

93回目「イエスタデイ」(ダニー・ボイル監督)

ビートルズについては、一応、代表曲とメンバーの名前くらいは知っている。東洋思想とかヨガに嵌ってインドのリシュケシュという街に滞在していた、という噂も聞いたことがある。でも、自分がビートルズについて知っていることは、それくらいだ。なぜか、ビ…

92回目「うつくしい人」(西加奈子:幻冬舎文庫)

自分は飲食店で注文するのが苦手である。ラーメン屋に行くと、皆口々に「麺固め」「ネギ多め」「背油少なめ」「ニンニク抜き」なんて注文をする。自分はあれができないのである。店員に「トッピングはどうしましょう?」と聞かれても毎回「全部、普通で」と…

91回目「鳥」(アルフレッド・ヒッチコック監督)

動物を見た時、「かわいい」と思うと同時に何とも言えない不思議な気分になることがある。例えば、猿回しの猿が、芸をするのを見た時。彼らは、確実に人語を理解し、人間との意思疎通もできる。仕草や表情なんかを見ても立派な感情を持った生物であることが…

90回目「ザ・ロック」(マイケル・ベイ監督)

ショーン・コネリーとニコラス・ケイジ主演のハリウッド映画。 テロリスト達(元米軍海兵隊)が、アルカトラズ島に一般観光客を拉致し、政府に身代金1億ドルを要求する。テロリストたちは、要求を飲めない場合、VXガスを搭載したミサイルを市街に打ち込むと脅…

89回目「自由の幻想」(ルイス・ブニュエル監督)

昔、ダウンタウンのコントに『実業団選手権』というのがあった。小学生の時に初めて見て爆笑した。しかし、このコントの面白さを文章で伝えるのは困難だ。「面白さ」には言語化が可能なものと、そうでないものがある。映画でも小説でもお笑いでも、粗筋があ…

88回目「ももたろう」(ガタロ―☆マン)

4歳の甥っ子へのプレゼントに絵本でも買ってやろうと、書店内をうろついていると偶然、この『ももたろう』を見つけた。昔話に『ももたろう』なんて、あまりにベタ過ぎるので、普通なら手に取る事すらしないと思うのだが、どこかで見覚えのある絵に「まさか…

87回目「深い河」(遠藤周作:講談社文庫)

自分は遠藤周作という作家が好きだ。遠藤周作を含め、自分には好きな作家が何人かいる。自分の趣味嗜好を分析してみると、その好きな作家に共通する作風が見えてくる。ここで注釈を入れると、「作家」は好きだが、彼らの書く「作品」が全て好きという訳では…

86回目「激突!」(スティーブン・スピルバーグ監督)

一台の赤い乗用車がアメリカの田舎道を走っている。片道一車線である。運転手は普通の中年男性。カーラジオを聞きながら、たまに車内で独り言を呟いている。後方にチラチラと大型タンクローリーが見えるが、別に気にならない。よくある光景である。途中、中…

85回目「秘密と嘘」(マイク・リー監督)

数年前にカンヌでパルムドールを受賞した映画。前回のブログで中上健次の『枯木灘』を取り上げた。『枯木灘』を読了して数日後に観たのが、このマイク・リー監督による『秘密と嘘』である。どちらも登場人物たちを取り巻く「複雑な血縁関係」が作品のベース…

84回目「枯木灘」(中上健次:河出文庫)

自分の場合、小説を読んで感動するのは主に「物語」と「文体」に依ってである。どちらか一方でも、自分の琴線に触れれば、素直に感動する。単純な人間なのだ。まあ別に「感動」といっても、泣いたり心が震えたり人生観が変わったり、というような大袈裟な意…

83回目「いかれころ」(三国美千子:新潮社)

最近、本を読んでも映画を観ても感想を書く時間が無い。だから今回のブログは、以前、ある読書会に参加した際に、自分の感想をまとめた文章を少し編集して載せます。 一回読んだだけでは、登場人物の関係性が掴み辛く、2回読んだ。人物相関図を書いて読むと…

82回目「ダウン・バイ・ロー」(ジム・ジャームシュッ監督)

先日、テレビで「日本人が好きな映画ベスト100」という番組を見た。その名の通り、日本人が好きな映画をランキング形式で順に紹介していく番組で、時折、パネラーが見た事のある映画についてコメントを挟む。番組には特に何の不満もないが、まあ予定調和な内…

81回目「あらゆる場所に花束が‥‥‥」(中原昌也:新潮文庫)

冨樫義博の漫画を読んだ時と同じような感想を抱いた。話の展開のさせ方が天才的に巧く、読者の興味を引きたてるけど、結局、最後は投げやり気味で終わる所が何となく似ているのだ。『幽遊白書』の魔界トーナメントの話も、トーナメントに至るまでの過程がと…

80回目「ソードフィッシュ」(ドミニク・セナ監督)

映画を観ながら、映画の本筋とは殆ど関係の無いことを三つ考えてしまった。何を考えたかを、下らない順に紹介する。 一つ目は、ジョン・トラボルタという俳優についてある。 ジョン・トラボルタ・・・。不思議な俳優だと思う。自分はジョン・トラボルタの顔…

79回目「苦役列車」(西村賢太:新潮文庫)

様々な場所で「文学の必要性」についての議論を見かける。自分自身、文学作品を読むのは好きだし、好きだからこそ、こんなブログも書いているわけだが、改めて「文学の必要性」を問われると答えに窮してしまう。「文学は人間性を豊かにするから読むべきだ」…

78回目「ダージリン急行」(ウェス・アンダーソン監督)

ウェス・アンダーソン監督の映画を最初から最後までちゃんと観たのは、この『ダージリン急行』が初めてだ。過去に『グランド・ブダペスト・ホテル』と『ムーンライズ・キングダム』を途中まで観てやめてしまった。なんとなく映画のテンションについていけな…

77回目「プレーンソング」(保坂和志:中公文庫)

自分は「やれやれ」と呟く人間が苦手である。「やれやれ」という嘆息には、様々な欺瞞が含まれているように思う。相手を小馬鹿にしている感じが嫌だ。馬鹿な事をした相手、或いは、馬鹿な状況に対して「やれやれ」などと呟く人は、「自分はこんな馬鹿なこと…

76回目「パッション」(ブライアン・デ・パルマ監督)

ゴダールとメル・ギブソンも同名の映画を撮っている。今回は、ブライアン・デ・パルマの『パッション』である。当たり前だが、他の『パッション』と内容は全然違う。3つの『パッション』の中では、エンターテイメント色が強く、一番見やすいのではないだろう…

75回目「悪意の手記」(中村文則:新潮文庫)

不治の病に冒された男が人生に絶望し社会を憎悪する。奇跡的に病気は回復するが、闘病中に心の中で育まれた虚無と悪意は消えず、やがて同級生の親友を殺害する。殺害に至るまでの主人公の心の動きと、その後の数年の人生を、手記形式で描いた小説。なぜ主人…

74回目「サイドウェイ」(アレクサンダー・ペイン監督

たまに観たくなる映画の一つ。 マイルスとジャック。2人の中年男の珍道中を描いたロードムービー。マイルスは小説家志望だが、まだ夢は叶わず教師として生計を立てている。ワインに造詣が深い。恋愛は奥手で不器用。繊細な性格。 ジャックはテレビ俳優でプ…

73回目「悪い種子」(マーヴィン・ルロイ監督)

1956年公開の映画。まず原作の小説があり、次いでブロードウェーで舞台化され、最後に映画化された。その後、別の監督でリメイクされている。知ったような書き方だが、全部ウィキペディアで調べた情報である。原作小説は読んでいないし、舞台はもちろん観て…

72回目「瓶詰の地獄」(夢野久作:角川文庫)

あははははは。いひひひひひ。うふふふふふ。えへへへへへ。おほほほほほ。はっはっは。あーっはっはっはっは。ぐへへ。ぐひひ。いひひ。ほほほ。くっくっく。ききき。けけけ。 と、いうように小説内で笑い声を表現するのは難しい。カギ括弧の中に笑い声を入…

71回目「21グラム」(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)

見終わってから2週間ほど経っているので、だいぶ記憶が薄らいでいる。重たい映画であったことは覚えている。内容自体の重たさに加えて、ベニチオ・デル・トロなどの俳優の演技も重厚であった。脚本も重層的であった。3人の主要登場人物のエピソードを、時…

70回目「4」(作・演出:川村毅) 2021年8月29日 京都芸術劇場 春秋座

自分は比較的リベラルな人間だと思っているが、死刑制度に関してはずっと前から賛成の立場だ。死刑制度に賛成する理由をこの場で説明するつもりはない。自分はかなり節操のない人間なので、イデオロギー的なものはコロコロ変わる。ただ不思議と死刑制度に関…

69回目「月に囚われた男」(ダンカン・ジョーンズ監督)

監督はデヴィッド・ボウイの息子らしい。デヴィッド・ボウイは、自分が最も敬愛するミュージシャンの一人だが、息子の映画監督としての活躍は殆ど知らなかった。 たった一人で3年間、月面で採掘作業をしている男が主人公。話し相手は人工知能のみ。想像する…

68回目「ファーゴ」(ジョエル・コーエン監督)

最近、かなり精神的に参っている…。それはさておき。 金に困った男が、同僚の知り合いの二人のチンピラに妻を誘拐させ、義父に身代金を払わせ、その身代金の半分を誘拐犯に渡し、残りの半分を自分のものにする・・・。という計画が二転三転し、悲劇が起こる…